景気循環と投資判断|「ディフェンシブ」という分類をどう扱うべきか

はじめに

景気循環を学ぶと、セクターの強弱は固定されたものではなく、景気局面によって振る舞いが変わることが分かってきます。

以前の記事では、なぜセクターごとに強い・弱いが生まれるのかを、景気循環という構造から整理してきました。

すると次に、こんな疑問が浮かびます。
「では、景気に“影響を受けにくい”とされるセクターは、この構造の中でどう位置づければいいのだろうか。」

投資の世界では、生活必需品、公益、ヘルスケアといったセクターを「ディフェンシブ」「影響を受けにくい」と呼ぶことがあります。どこか安心できそうな響きの言葉です。

しかし、景気循環の理解が進むほど、それらの言葉をそのまま当てはめてよいのか、迷いが生まれてくるのも自然な流れです。

分類は、正解を教えてくれる答えなのか。それとも、自分の判断を助けるための道具なのか。

この記事では、景気循環の文脈で使われがちな「ディフェンシブ」「影響を受けにくい」という分類を、投資判断の中でどう扱うべきかを整理していきます。

なぜ「影響を受けにくい」「ディフェンシブ」という言葉は誤解されやすいのか

※「ディフェンシブ/シクリカル」の区分は、指数会社や運用会社の定義によって、含まれるセクターが異なる場合があります。本記事では、一般的に代表例として挙げられやすいセクターを用いて説明します。

「ディフェンシブ」「影響を受けにくい」という言葉は、投資を始めてしばらくすると、自然と目に入るようになります。
生活必需品や公益、ヘルスケアといったセクターがその代表例として挙げられることも多いでしょう。

これらの言葉が誤解されやすい理由の一つは、日常語としての意味と、投資用語としての意味が混ざりやすい点にあります。

「影響を受けにくい」と聞くと、多くの人はこのようなイメージを思い浮かべてしまうのではないでしょうか?
・価格が下がらない
・常に安定している
・持っていれば安心

しかし、投資の文脈で使われる「影響を受けにくい」「ディフェンシブ」という表現は、そうした保証を意味しているわけではありません。

あくまでそれは、「景気の変動に対して、他のセクターと比べたときに需要の落ち込み方が相対的に緩やかになりやすい」という性質を指しているに過ぎません。

ここで重要なのは、この表現が相対評価であり、条件付きだという点です。

景気が悪化しても、人は食料や日用品を完全に買わなくなるわけではありません。
電気や水道の利用も、ゼロにはなりません。
医療需要も、景気とは別の理由で発生します。

こうした背景から、これらのセクターは「景気の影響を受けにくい」と説明されることがあります。

しかしそれは、「影響を受けない」「下落しない」「安全である」という意味ではありません。

景気循環という視点で見ると、ディフェンシブと呼ばれるセクターも、局面によっては相対的に弱くなることがあります。
また、金利や政策、規制、コスト構造といった別の要因の影響を強く受ける場面もあります。

その一方で、「ディフェンシブ=安心」というイメージだけが先行すると、分類が性質の説明から
判断の代替にすり替わってしまいます。

これが、「ディフェンシブ」という言葉が投資判断の中で誤解されやすい最大の理由だと思っています。

景気循環の文脈で見た「ディフェンシブ」の本来の意味

景気循環は、セクターの役割を変える

ここまでで、「ディフェンシブ」「影響を受けにくい」という言葉が誤解されやすい理由を整理してきました。

では、それらは景気循環の中で本来どのように位置づければよいのでしょうか。

ポイントは、ディフェンシブという分類を、固定された性質ではなく「景気循環の中での振る舞い」として
捉えることです。

景気循環では、回復期・拡大期・後退期・加熱期といった局面ごとに、経済活動の中心が少しずつ移り変わります。

企業の投資行動、家計の消費行動、金融環境や金利条件。

これらが同時に一斉に動くのではなく、時間差を伴って変化することで、セクターごとの相対的な強弱が生まれます。

ディフェンシブと呼ばれるセクターは、この循環の中で「どの局面でも強い」存在ではありません。

・景気が減速する局面
・成長への期待が後退する局面
このような状況では、他のセクターと比べて需要の落ち込み方が緩やかになりやすいという特徴を持つに過ぎません。

強さではなく、役割で見る

ここで重要なのは、ディフェンシブを「強いセクター」「安全なセクター」として捉えないことです。

景気循環の視点で見ると、ディフェンシブとは循環の中で役割が異なるセクターだと整理できます。

・成長が期待される局面では相対的に注目されにくい
・景気の不透明感が増す局面では相対的に選好されやすい

この違いは、企業の優劣ではなく、景気局面と経済活動の順序から生まれています。

文脈を切り離すと、意味は変わる

ディフェンシブという言葉が誤解されやすくなるのは、景気循環という文脈から切り離されて使われたときです。

・景気局面を考慮しない
・他のセクターとの相対比較をしない
・金利や政策といった要因を無視する

こうした状態で「影響を受けにくい」という言葉だけを見ると、分類は一気に万能な性質のように見えてしまいます。

しかし実際には、ディフェンシブという分類は景気循環の中で初めて意味を持つものです。

本来の位置づけ

景気循環の文脈で整理すると、ディフェンシブとは、景気の影響を「受けない」存在ではなく、景気変動の中で業績の反応や企業行動、株価の相対的な動きといった振る舞いが他のセクターと異なる存在だと捉えるのが自然です。

ここまでの整理を踏まえると、ディフェンシブは安心材料でも、免罪符でもなく、判断を補助する視点の一つとして位置づけ直すことができます。

分類は“答え”ではなく“視点”である

ここまでで、「ディフェンシブ」「影響を受けにくい」という分類が、どのような文脈で意味を持ち、どこで誤解されやすくなるのかを整理してきました。

この整理を踏まえると、一つはっきりしてくることがあります。

それは、こうした分類(ラベル)は投資の唯一の答えではないという点です。

分類は判断を代替するものではない

投資において、分類はしばしば「正しい行動を教えてくれるもの」のように扱われがちです。

・ディフェンシブだから持っておけば安心
・シクリカル(景気の変動を受けやすいセクター)だから景気が良くなれば買い
・成長株だから将来性がある

こうした考え方は、一見すると合理的に見えます。

しかし、分類がそのまま行動指針になる時、思考はそこで止まってしまいます。

分類が状況を説明する道具から、判断を肩代わりする存在に変わってしまうからです。

視点として使う、という考え方

分類を「答え」ではなく「視点」として捉えると、使い方は大きく変わります。

視点とは、
・物事を見る角度
・判断材料を整理する枠組み
です。

ディフェンシブという分類も、「買うべきかどうか」を直接教えてくれるものではありません。

代わりに、ディフェンシブという分類は、次のような問いを立てるための視点になります。

・今はどの景気局面なのか
・市場は何を織り込み始めているのか
・他のセクターと比べて、どんな役割を期待されているのか

文脈と組み合わせて初めて機能する

視点としての分類は、単独では機能しません。

・景気循環
・金利環境
・政策
・市場心理

こうした要素と組み合わさって、初めて意味を持ちます。

だからこそ、分類だけを切り出して使うと、判断が単純化されすぎてしまいます。

逆に言えば、文脈とセットで使う限り、分類は非常に有用な整理の為の道具になります。

分類を使う、という姿勢

ここで重要なのは、「分類を信じるかどうか」ではありません。

分類をどう使うかです。

・何を前提に
・どの文脈で
・どんな判断を助けるために使うのか

これを意識するだけで、分類は不安を和らげるラベルではなく、思考を支える道具に変わります。

分類を「使う」という感覚

ここまで、「ディフェンシブ」「影響を受けにくい」という分類について、誤解が生まれやすい理由と、景気循環の中での本来の位置づけを整理してきました。

見えてきたのは、分類そのものが正解や結論を示してくれるわけではない、という事実です。

分類は、未来を当てるための答えではなく、状況を整理し、判断を助けるための視点です。

景気循環、金利、政策、市場心理。
そうした文脈と組み合わせて初めて、分類は意味を持ちます。

つまり重要なのは、分類を信じるかどうかではなく、どう使うか。

この感覚を持てるかどうかで、投資判断の安定性は大きく変わると、私は考えています。

おわりに

分類は、投資の不安を消してくれる万能な魔法ではありません。
けれど、何を見て、何を考えるべきかを静かに指し示してくれる道具にはなります。

「ディフェンシブ」「影響を受けにくい」といった言葉も、正解を与えてくれる答えではなく、判断を整理するための視点として置いた時に、初めて意味を持ちます。

分類を信じるのでも、疑うのでもなく、使いどころを意識して使う。
この距離感を保てるかどうかが、投資判断の安定性を左右すると、私は考えています。

次回は、こうした考え方を前提に、実際の運用の中でどのように判断を補正し、セクター比率や行動に落とし込んでいくのか。
より具体的な話に進んでいきます。

おすすめの記事